BIS-CD-120 解説、日本語版



BIS-CD-120
JOCULATORES UPSALIENSES
Woods, Women and Wine

ヨクラトーレス・ウプサリエンセス
(ウプサラのおどけ物)
「森と女とワイン」

このタイトルはスウェーデンの有名な喜劇役者の台詞からとったものです。「作曲家のインスピレーションの源はいろいろあります。森(自然)と女とワインです。」

注:このCDは2枚のLPを1枚に収録しなおしたものです。LP-120はCDのトラック12~33まで。主要なメンバーの一人、スヴェン・ベルイェルは1~11までは参加していません。故にこの解説も12~33のみとします。

(楽器の中で私の手に負えないものがいくつかあります。日本語でなんというかご存知の方、教えてください。
この小冊子は完全な翻訳を目標としていません。端折ったところもあるし、足してあるところもありますので、ご了承ください。
内容に不完全なところを見つけた方は、お知らせ頂ければ幸いです。)

(訳者:中世、ルネサンスの歌は繊細でやさしく心を慰められるようなものがあるのと同時に、単純にして粗野、卑猥な内容のものも数多くあります。そしてそれ等が世紀の作曲家の作品に劣らぬ巧妙なカウンターポイントを伴っていたり、現代のヨーロッパでは失われてしまった旋律やリズムの妙をあっけらかんと表示していたりで、その絶妙さに私は魅力を感じています。)

ヨクラトーレス・ウプサリエンセス(ウプサラのおどけ物)は主として13世紀から17世紀前半までに存在した音楽に生命を吹き込むことを目的とした者たちの集まりである。レパートリーは世俗的なものも宗教的なものもあり、その時代の楽器のコピーを使用している。1965年発足当時は純粋な暇つぶしの産物であったが、やがてコンサートなどを通してスウェーデン国内外のラジオやテレビで名を知られるようになる。その自由奔放な演奏スタイルはあらゆる階級の人々に受け入れられてきた。長い年月に渉る活動を通して、メンバーは入れ替わっているが、発足当時からの5人のうち4人は未だにアクティブである。数人の音楽教師以外のメンバーの職業はいろいろで、天文学者、図書館司書、コンピュータ専門家、化学者、博物館館長のほか、音楽家までいる。そして全員が熱心に古楽の普及に携わっている。
BISからCDを3枚出している(BIS-CD-3, -75, -120)。
(訳者:翻訳にあたってこれ等のCDをまた聞き直してみました。今の水準からいうと確かに難のあるところもありますが、録音されたのが1973年(LP-03) , 1976年 (LP-75) , 1978年(LP-120)と30年以上も前だったことを考慮に入れると、LP-03 が一時代を画したレコードだったことがうなずけると思いました。)

#12. アノニムス (14世紀):サルタレロ(スヴェン・ベルイェル編)
大英博物館写本より。イタリアが源と思われるダンス曲。お互いに対立する旋律とリズムが複雑に入り組んだ編曲が面白い。即興的な導入部の後に続くオリジナルのテーマはAbAcAdA のロンド形式。 楽器はポンマー、リコーダー、フィッドル、リュート、打楽器。

#13. ジョヴァンニ・デ・フィレンツェ(ca. 1350):落葉の森で(カッチャ)
カッチャ(狩、追いかける)はイタリアのいわゆるトレチェント(14世紀)の典型的な形式。二声のカノンが第三声の楽器と絡まっていく。一つのパートが先を行くパートを捕まえようとする形体と共に、歌詞も狩について歌っている。この形式はラブハントの意味も含む。ここでは落葉した森の中で起こるハント。最後のリトルネッロは省略されている。 リュートとポンマーを伴った歌。

#14. オズワルド・フォン・ヴォルケンシュタイン(ca. 1377-1445):酒の歌(カノン)
「酒屋のおやじ、おいらは喉が渇いてるんだ。もっと酒持って来い。」という歌詞ではじまる三声のカノン。作者は個性豊かな冒険家、詩人、歌い手のオズワルド・フォン・ヴォルケンシュタイン。
4人のシンガーを伴奏するのは口琴。

#15. アノニムス (ca. 1450):百姓が出かけていった
ゴッシップ・ソング。百姓が薪を集めに森に出かけた。その留守に悪辣な坊さんがかみさんを訪ねてきたとさ。その後に何が起こったかは、ドイツ語の前置詞をつなげることで暗示している。(くっついたり、離れたり。上を下への大騒ぎ)
ドラム、フィッデル、歌、リコーダー、”オニオン・フルート”(中国産の笛。吹き口の近くにある穴に玉葱の薄皮などを貼る。ズーズーという音が出る)、ポンマー、トロンボーン。

#16-18.
15―16世紀のスペインの宮廷で歌われたカンシオネロ(歌集)は当時の豊かな音楽の世界を垣間見るようだ。宮廷の愛の歌やふざけた戯画が宗教曲やその風刺と織り交じっている。今日知られている限りでは、この印刷本(ベニス1556年)はたった一冊のみ生き残った。それがウプサラだったので、カンシオネロ・デ・ウプサラと名づけられている。以下3曲はこの曲集よりとった。

#16. アノニムス (ca. 1500):キスして、抱いて(ヴィランチコ)
「キスして、抱いて、私の愛するハズバンド」若い妻は無精者の夫をなだめすかしてベッドから起き上がらせようとする。「洗いたてのシャツにアイロンも当ててあるんだよ」しかし何を言っても男は起きる気配もない。この素朴な歌(スペインにはこのような歌がかなり残っている)は当時の人々の生活を垣間見せてくれるようだ。人気を博したヴィランチコ(a b b a)形式。
歌(二人)、リコーダー(二本)、トロンボーン、手拍子。

#17. アノニムス (ca. 1500):人は言う
「人は言う。この俺が恋をしていると。村の噂は言う。俺がベルトの下に愛を隠していると。そんな考えを俺が持っているのなら、悪魔に食われてしまってもいい。」フルート、フィッデル、ガンバに伴われて歌うこの男の言うことに私たちは疑問を持つ。それとも?

#18. アノニムス (ca. 1500):ファラララン(ヴィランチコ)
貧しい羊飼いのペドロの牧歌的な描写。
1)みんながペドロのことを「新婚さん」と呼ぶ。なぜなら彼は遂げることのない夢、ご主人様のお嬢さんと結ばれることを願っている。
2)彼は羊の群れと野宿をする。
3)断食の季節にはイワシも塩漬けも食べないで、油を滲ませたパンのかけらを食べる。歯にしみる。
リフレインのファラララン、ファララレラはそんな惨めな生活を吹っ飛ばすように楽天的。歌詞の部分は二本のクルムホルンが伴奏。四声のリフレインはもっと多くの楽器(リュート、フィッデル、ガンバ、リコーダー、オニオン・フルート)を加えて囃したてている。打楽器が思わず引きずり込まれるような柔軟性を持つリズムを受け持っている。

#19. アノニムス (13世紀):王様の第五エスタンピ(スヴェン・ベルイェル編)
中世の世俗音楽の中には、かなりの数の歌や器楽舞踏曲がエスタンピと命名されている。特徴はリフレーンにオープン(A1)とクロース(A2)があり、即興的な部分を挟んで交代に現れる。A1-B-A2-C-A1-D-A2-E―A1―F―A2etc.
レベックと並行5度で動いていく伴奏はハーディーガーディ。

#20. 無名吟遊詩人/ヴァルター・フォン・デル・フォーゲルヴァイデ (ca. 1200):菩提樹の木の下で(スヴェン・ベルイェル篇)
南ドイツのミンネゼンガー(ミンネ = 愛)、ヴァルター・フォン・デル・フォーゲルヴァイデは同時代のフランスの吟遊詩人の歌に自分の作詞を付けている。ヴァルターは若い乙女の秘会をやさしく語る。会う瀬を見たのはナイチンゲールだけ。「タンダラデイ、でも鳥は秘密を守って何も言わない」
歌の伴奏はハープとゲムスホルン(アルプスかもしかの角笛)

#21. アノニムス (16世紀前半):我等が栄光を誇るグラス(酒の歌)
正式の僧侶でなく平信徒たちは教会と俗世をつなげる役をはたしている。意識していたのかいないのか、彼等はギルドの集会などで、宗教音楽の要素を市民が結成している合唱団などに積極的に導入する役割を果たしていた。この「我等が栄光を誇るグラス」という曲はゲオルグ・フォルスターが編集したソング・ブック、(ニュールンベルグ1540年)に収録されている。ワインを賛美する内容ははっきりと同時代の教会音楽をからかっている。この酒の歌はリーダーのソロと声楽4重唱で歌われている。

#22. ヘルマン・フィンク (1527-1558) :飲み干せ。ちびちび飲むなよ。
ヴォルフガング・キュッフェルの楽譜帳(ウィッテンベルク、1550年代)に現れるこの器楽曲はこれに続く歌詞は見当たらない。当時はこのように歌曲を器楽のみで演奏するための楽譜がかなり普及していた。この酒の歌はここではツィンク、ポンマー、トロンボーンで演奏されている。

#23. マティアス・グライテル (ca. 1490-1552):狩人が狩をしようと…
同時代のハンティング・ソングによくあるように、このバイエルンの猟師は森の中で3人の美しい娘に出会う。最初の乙女はマルガレータと名乗った。二人目はウルズラ。猟師(多分貴人であろう)は3人目の娘が一番気に入ったのだが、彼女は名前を明かさなかった。彼は彼女を自分の城に連れて行った。
トロンボーン/歌とクルムホルン3本。

#24. エルスライン、愛しのエルスライン(4つのヴァージョン)
1)アノニムス(メロディーの提示)
2)アノニムス(2声のセッティング。ゲオルグ・ラウのビチニア・ゲルマニカ、1545年より)
3)アノニムス(3声のセッティング。グローガウエル・リーダーブーフ、1470年ごろ)
4)多分ルードヴィッヒ・ゼンフル(ca. 1489-1543: 高音部にメロディーを持つ4声のセッティング。1540年印刷)
「エルスライン、愛しのエルスライン」は1500年前後に歌われたもっともポピュラーな歌のひとつであろう。無名、有名にかかわらず多くの作曲家がこのテーマを扱っているのだから。歌詞は遠く離れた二人の恋人者同士がお互いを恋焦がれる内容で、二人の間には深い溝が横たわっている(より詳しいテキストによると、この二人は高貴な家の出ということらしいが、ほとんどの歌にはこの部分が省略されている。おそらくそのほうが一般受けしたからであろう)。
メロディー導入はゲムスホルン、2声のヴァージョンはリュートとガンバ、3声は歌、トロンボーン、ガンバで。最後の4声ヴァージョンは歌、リュート、フィッデル、リコーダー、トロンボーン、ガンバ。

#25. アノニムス (ca. 1550):ガリアード なにもかも
エネルギッシュなダンス。スサートのダンス曲集(アントワープ、1551年)
ガリアードの特徴であるヘミオール(3拍対2拍)を伴う。
リコーダー、クルムホルン、トロンボーン、リュートフィッデル、ドルシアン、ポンマー、ツィンク、打楽器。

#26. ヨースト・フォン・ブラント:美しい栗毛色の髪の乙女が気に入った
繊細な歌詞の美しい5声の歌。栗色の髪をもつエレガントな少女の忘れえぬ印象、憧れを歌う。
コルトホルト、フィッデル、リコーダー、歌、ドルシアン

#27. アノニムス (ca. 1500):脱穀屋がやってきた
スイス人ヨハネス・ヘール・フォン・グラールス(1510)の歌曲集から。野卑な歌。「脱穀する」という動詞には二重の意味が含まれている。ここに現れる脱穀屋は神出鬼没の放浪者で女を床に横たえて、「雄鶏が雌鳥にするようなこと」をする。
リフレインは「それから彼は彼女を弓弾き、彼女は彼をジッグを踊るようにした(jigg = 急速に上下に動かす)。甘美なことよ」
ここでの使用楽器は当然ながら弦楽器、フィッデルとガンバ。

#28. アノニムス (ca.1500):バス・ダンス 私の願望
他の多くのダンス曲と同様、スサートのダンスリー(1551、#25参照)より取ったこのバス・ダンスも歌曲が源となっている。当時の作曲家は自分の曲が他の音楽家に取り上げられ、編曲されるのを名誉と思っていた。
使用楽器は:リュート、低音のリコーダー二本、ガンバ。

#29. ジョン・ダウランド (1563?-1626):素敵なご婦人のための手練(アンデシュ・ブラクショー編)
作者不明のテキストにダウランドが曲をつけたもの。歌詞にある怪しげな行商人が売るまやかし物は女性の客に対する感情と大きなコントラストをなしている。「服はボロでも心は誠実」
ダウランドの歌とリュートのオリジナルに、バス・ガンバ、リコーダー、フィッデル、ツィンク、トロンボーンが加わっている。

#30. ウイリアム・バード (1543-1622):Wolseys Wilde (スヴェン・ベルイェル編)
ちょっと謎を秘めた題名だが、同じメロディーを持つほかの曲に ”The Woods so Wild (かくもワイルドな森よ)” というのがある。バードの鍵盤曲(フィッツ・ウイリアム・ヴィルジナル・ブック、1562-1612)をここでは当時の編曲法に基づいた和音でクルムホルン四重奏に編曲している。

#31. ヤコブ・アルカデルト(ca. 1500-1568):マルゴー、ワインを育てる
フランスの民謡にあずかる歌詞はマルゴーについて次のように語る。
三人の大尉たちは彼女は唯の百姓娘だという。しかしマルゴー自身は、自分はそれ以上のものだと反論する。王様の息子が私を望んでいる。彼は私にワインの木を預けて、もしこれが花を付けたらあなたは王女になるでしょう。でもダメなら恥ずべきだ。とおっしゃったのだから。
アルカデルトはこれを男声(弦楽器が伴奏)と女声(リコーダーとリュートが伴奏)の対話の形で表現している。そしてハーディーガーディーがこの曲の庶民的な性格と出典を表現している。

#32. アルノルド・フォン・ブルック(ca. 1490-1554):さあ、みんなで飲もう
酒を褒める歌。豪壮、活気あふれる五声の曲はフランドル生まれのオーストリア人、アーノルド・フォン・ブルック(ブルージュ)の作曲、ゲオルグ・フォルスターの歌曲集(ニュールンベルク、1540)に収められている(#21並びに#23参照)。
カントス・フィルムス(一番歌いやすいパート)はツィンクとリコーダーで交互に、他の部声はクルムホルンで演奏されている。

#33. アノニムス(ca. 1470):アル・フォル
グローガウ地方の歌曲集より。
どうしようもないアル中の男と批判的な女の掛け合い。
男:酔っ払った、酔っ払った、酔っ払ったぜー。
女:おまえさん、酔っ払ったんだったら寝ちまいな。明日また起きて、飲めばいい。
一年中、朝から晩まで。

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中世、ルネサンスの楽器については
http://www.mrcd.nu/jap/misc-1.shtml をご参照ください。